浅い夢を見て

すき。すきすきすきすき。何十、何百、何千、何万回言っても言いたりないくらい、雲雀が好き。そう言った山本は、だからキスしよう、と続けた。僕は、心底意味が分からないと思い、そのとおり彼に告げた。だから嫌だ、と。でも彼は僕の言葉なんざ聞いちゃいなくて、ソファーにいる僕の隣にぎしりと音をさせて乗って顔を近づけて、抵抗しようとする僕の腕をいつもより心なしか強い力で抑えて、そして押し倒すような格好で僕の上に覆いかぶさって、  キスを、
 
そのとき僕は目を開けた。山本がいるとばかり思っていた目の前には、誰もいなかった。僕がいたのは応接室で、それは変わらないけれど、部屋の中には自分以外に誰もいない。少し考えて、ああ、夢だったのだと理解した。さっきいた山本は、僕がひとりで勝手に見た幻なのだと。それもそう、窓を開けて校庭をながめれば野球部が練習を続けていて、その中で山本も白い球を追いかけている。現実の彼と夢の中での彼を比べるうちに、自分が見てしまった、想像上の山本があんなだったことにひどく嫌気がさした。なぜあいつにキスされる夢なんて。実際に山本がそんなことするとは、・・・・・・考えられなくもないけど、考えたくもなかった。やっぱりあれは在り得ない、悪い深い夢だったのだ、と記憶の奥にしまっておくことにした。
 
だけど僕は直後、やっぱりあれはとても浅い浅い夢だったのだと前言撤回する羽目になる。
(そのあと既視感)


(浅い夢を見て:約30の嘘