Re:好き
「みーどりたなーびくー・・・・・・」 並中の校歌が流れ出した。電話か、と仕事をする手を休めて机の上の携帯に伸ばす。途端に音が止んだ。どうやらメールだったらしい。でも誰から?心当たりはない。また何か新たな問題が起こったとでも言うのだろうか。不審に思いながら光っているディスプレイをのぞく。[メール1件*山本武]。・・・君にはアドレス教えた覚えないよ。思わずつぶやいていた。 そういえば昨日山本がこの携帯を勝手にいじっていた。きっとあの時に赤外線通信だとか何とかやってたんだと思う。僕のアドレス帳に山本の連絡先は入れてなかったはずだけど、いつの間にか登録してあるし。あいつのことだから何かはっきりした用があるとも思えないが、メールくらいなら見てやってもいいかもしれない。ピ。不愉快な音をたてて画面が変わった。[件名*好き]・・・・・・・・・?携帯を窓の外へと投げ捨てようかと、一瞬真剣に考えてしまった。だけどこれは僕の私物だ。壊しても得なんかない、損するばかりだと辛うじて踏みとどまる。呼吸を整える。一応本文をとボタンを押すと、そこにはただ空白があるだけだった。つまり、件名2文字だけのメール。嫌がらせにも程がある。らしいと言えばらしいが。してやられたとそのままではいられずに、僕は彼に返信しておくことにした。使い慣れないボタンを押す。 「ピピピ、ピピピ、ピ」 ひとり廊下を歩いていると、かばんの中からこもった音がきこえた。メール受信。さっき送ったメールに雲雀が返してきたのかもしれない。[件名*Re:好き]。あ、やっぱりそうか。あいつのことだから、もっと遅いか、返信すらないかもと考えていた。意外とそういう面でまめな人間なのだろうか、と思う。ボタンを押すとそこには、[ばか]、とそうひとことかいてあった。その、文面とも言えないような文面に、あまりにもあいつらし過ぎる、と声をたてて笑い出したくなる。歩いていた俺が足を止めたのは応接室。ノックしてドアを開けると、突然来た俺を見た彼は、いつものことなのに驚いているようにも見えた。そしてもう一度、「ばか、」とだけ言った。そのあまりにも彼らし過ぎる言葉に、俺は笑ってしまった。 |
(届いたメールで10のお題より,Re:好き:Delitto)