こめかみに、冷たい細い指がふれた。痛い。
顔をしかめた俺を見下ろし、そいつは声を立てて笑った。「あざができてる」「目立つ?」「真っ青」。欲しかった答えは得られない。「痛い、って言わないの?いつもは言うのに」なんて、不満そうに。俺がもし痛いとでも言えば、素直にごめんと謝るのだろうか。もうしないのだろうか。いや、そんなことはない。ただそいつは、俺の痛がる顔を見て笑うだけだ。 「おまえってさ、ドSだよな」「ああ、今さら?」「ああ、って・・・そんなさらっと言うか」「気づくのが遅かったね」、本当に俺と同じ構造をしているのか。そう考えてしまうほどその笑みは艶やかだった。自分が顔をしかめているのがばからしい。いくら殴られても許すのが世の摂理、そんな気をも起こさせる、なんて甘美な。でもその笑みの持ち主がそんなに甘い訳でもなく、許せばまた次の痛みが俺を待つ。騙されるのも、また摂理。ああ、今、俺、世界中で一番幸せだったかもしれない。真顔でそういうとそいつはまた、気づくのが遅かったねと声を立てて笑った。
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