苦労人ナルシスト

(少し伸びたな・・・・・・)
鏡の前に立った彼は、1センチ程伸びた頭髪を確認していた。
 
彼の名は持田剣介、剣道部のややナルシスト気味な元主将である。今日、3月13日は並盛中学の卒業式。そしてそれと同時に、この男、持田の15歳の誕生日でもあった。
 
ところ、並盛中体育館。
卒業生の持田たちは、在校生と向かい合って座っている。いつ聞いても長い校長の話には、卒業式という今日の日でもありがたみを感じることは無かった。暇を持て余し、周囲に目を走らせる。
 
(お、京子)
同じ委員会だった笹川京子がいた。卒業してしまえば、もう会うことも無いのか・・・・・・と、少し感傷に浸ってみる。校長の話に真面目に聞き入っている彼女は、やっぱり可愛かった。
 
(他に知ってる奴は・・・・・・・・げ、沢田綱吉)
俺は奴のことを一生忘れないだろう。今だって京子の隣でにやにやでれでれしやがって。くそ、誰のせいで1年間も俺がヅラ生活を強いられたと思ってるんだ!!思い出すと今でも腹が立つ。元はといえば自業自得なのだが。
 
(あ、あいつが獄寺とかいう)
帰国子女で不良だという噂を小耳に挟んだことがある。奴はあの沢田の後ろについて歩いているらしい。ダメツナなんぞになんで不良が・・・・・。全く理解出来ない。
 
(・・・・・・と、あれが野球部のエースか)
山本武。秋の大会でホームランをかっとばしていた、期待の新人だと聞いたことがある。そんな人気者までもが、俺の敵、沢田の仲間だそうだ。沢田、奴は一体裏で何をやってるというんだ!!
 
見る者見る者、全てが沢田に関係してくることにむしゃくしゃして、にらみつけるようにあたりを見る。すると、ドアのところに立っている誰かと目が合った。
 
(ひ、雲雀恭弥さん!!)
 
卒業式中にそんなところにいるのなんて、彼くらいのものだろう。よりにもよって雲雀さんをにらむだなんて、せっかくの3月13日に俺は相当運が悪いらしい。元から切れ長の目をさらに細めてただじっと見てくる彼の視線に怯み、頬を冷や汗が伝う。
 
すきま風にひらりとなびいた学ランの内側に、きらりと蛍光灯の光を反射するものがあった。・・・きっとトンファー。それを目にしたとき、俺は顔を覆いたくなった。
 
「おい、どうしたんだよ持田」
卒業式に不釣合いな冷や汗に気付いた隣の同級生が囁いてきた。
しかし、俺はそれに一言も返すことが出来なかった。


(持田誕生日記念でした。なんて悲惨。でも愛ゆえです)